先日、ひさしぶりに地方で暮らす両親の元へ帰省した時のことです。玄関の引き戸を開け閉めするたびに、鍵の古さが気になりました。聞けば、私が子供の頃から使っている、ギザギザした形状の鍵で、家を建ててから一度も取り替えたことがないとのこと。鍵の動きも渋く、何より、最近この地域で高齢者宅を狙った空き巣被害が増えていると聞き、私は急に両親のことが心配になりました。「まだ使えるから大丈夫」と楽観的な父と、「新しい鍵は使い方が難しそう」と不安げな母。そんな二人を、私は半ば強引に説得し、親孝行のつもりで、鍵の取り替えをプレゼントすることにしました。業者選びで重視したのは、地元での評判と、高齢者への配慮があるかどうかです。インターネットの口コミサイトで、丁寧な対応で評価の高い鍵の専門業者を見つけ、電話で相談しました。実家の状況と、高齢の親が使うという点を伝えると、担当者の方は親身になって話を聞いてくれ、いくつかの選択肢を提案してくれました。その中で私たちが選んだのは、防犯性の高いディンプルキーでありながら、鍵穴の周りがすり鉢状に窪んでいて、暗い場所や手が不自由でも鍵を差し込みやすい「ユニバーサルデザイン」の製品でした。工事当日、業者の方は、新しい鍵の操作方法を、父と母が完全に理解できるまで、ゆっくりと、そして何度も丁寧に説明してくれました。その親切な対応に、両親もすっかり安心した様子でした。新しい鍵は、以前のものとは比べ物にならないほどスムーズに動き、施錠した時の「ガチャン」という重厚な音は、聞いているこちらまで安心させてくれます。帰り際、母が「これで夜も安心して眠れるわ。本当にありがとうね」と、心から嬉しそうに言ってくれた時、私は、今回の親孝行が、本当に良い選択だったと実感しました。鍵を取り替えるという行為は、単に物(ぶつ)を新しくすることではありません。それは、離れて暮らす子供から親へ、「安全」と「安心」という、目には見えないけれど、何よりも大切なものを贈ることなのだと、私は学びました。その日から、実家の玄関で輝く新しい鍵は、私にとって、親を想う心の象徴のような存在になっています。
実家の鍵を取り替えて親孝行をした話