近年の防犯対策を語る上で、もはや欠かすことのできない存在となっているのが「ディンプルキー」です。その独特な見た目と、従来の鍵とは一線を画す高い防犯性能は、どのようにして実現されているのでしょうか。その巧妙な仕組みを理解することは、なぜディンプルキーが最強の防犯鍵と呼ばれるのかを知るための鍵となります。ディンプルキーの最大の特徴は、鍵の表面に彫られた、大きさや深さの異なる多数の小さなくぼみ、すなわち「ディンプル(dimple=えくぼ、くぼみ)」です。従来のギザギザした鍵(ピンシリンダーキー)が、鍵の片面あるいは両面の縁を削り、一列に並んだピンを上下に動かしていたのに対し、ディンプルキーは、鍵の平らな面に、複雑なパターンでくぼみを配置します。このくぼみに合わせて、鍵穴であるシリンダーの内部には、上下左右、時には斜め方向といった、あらゆる角度から、多数の「ピンタンブラー」が放射状に配置されています。その数は、多いものでは18本以上にも及びます。正しいディンプルキーを差し込むと、これらの無数のピンが、ディンプルの正しい深さに、ミクロン単位の精度で押し上げられたり、押し下げられたりします。そして、全てのピンが、シリンダーの内筒と外筒の境界面である「シアライン」に完璧に揃った時に初めて、シリンダーが回転し、鍵が開くのです。このピンの組み合わせのパターンは、理論上、数億から、製品によっては数百億通りという、天文学的な鍵違い数を実現しています。これにより、ピッキング(特殊な工具でピンを一本ずつ揃えていく手口)による不正解錠は、時間的にも技術的にも、極めて困難になります。プロの空き巣犯でも、解錠には多大な時間を要するため、侵入を諦めさせる高い効果が期待できるのです。さらに、ディンプルキーの多くは、ドリルなどを使った物理的な破壊に対しても高い耐性を持つよう、シリンダー内部に超硬金属のピンを埋め込むなどの対策が施されています。複雑な内部構造によるピッキング耐性と、物理的な破壊耐性。この二つの強固な防御壁を併せ持つディンプルキーは、現代の住宅を守る上で、最も信頼性の高い選択肢の一つと言えるでしょう。
最強の防犯鍵ディンプルキーの仕組み