高い防犯性を誇る玄関オートロックですが、そのセキュリティをいとも簡単に無力化してしまう、一つの大きな弱点が存在します。それが、「共連れ(ともづれ)」と呼ばれる侵入手口です。これは、特別な技術や道具を一切必要とせず、人間の心理的な隙を突いた、非常に古典的で、しかし効果的な手口です。その危険性を正しく理解し、日頃から対策を意識することが、オートロックの防犯効果を維持するために不可欠です。共連れとは、居住者が鍵を使ってオートロックのドアを開けた際、その直後を狙って、あたかも関係者であるかのように装い、ドアが閉まる前に一緒にするりと建物内に入り込んでしまう行為を指します。犯人は、宅配業者やセールスマンを装ったり、あるいは、ただの居住者であるかのように自然に振る舞ったりします。私たちは、後ろから人がついてきた場合、「同じマンションの住人だろう」と無意識に思い込み、ドアを開けて待ってあげたり、特に気にせず先に入ってしまったりしがちです。この、日本人特有の「性善説」や「他人への配慮」といった心理が、共連れを容易に成功させてしまう大きな要因となっています。一度、建物内への侵入を許してしまえば、オートロックはもはや何の意味も成しません。犯人は、各住戸の玄関ドアの前まで自由に到達でき、そこからピッキングや空き巣の犯行に及んだり、あるいはストーカー行為や悪質な訪問販売を行ったりするのです。では、この共連れを防ぐためには、どうすれば良いのでしょうか。最も基本的な対策は、「オートロックのドアを通る際は、必ず後ろを振り返り、不審な人物がいないか確認する」という習慣を、全ての居住者が徹底することです。もし、知らない人物が後ろにいる場合は、会釈をしつつも、先に入ってドアが閉まるのを待つ、という少しの勇気が必要です。「冷たい人だと思われたらどうしよう」と感じるかもしれませんが、それは、あなた自身と、他の全ての居住者の安全を守るための、責任ある行動なのです。また、もし不審な人物を見かけたら、挨拶をして「どちらまでご用ですか?」と声をかけるのも有効です。多くの不審者は、声をかけられることを嫌い、その場を立ち去ります。オートロックのセキュリティは、機械の力だけでなく、そこに住む一人ひとりの防犯意識によって、初めて完成するのです。